これは、営業組織にとって重要な問いの一つです。
商品知識が豊富な人や、事前のリサーチを徹底している人ほど、成果を上げるのでしょうか。
もちろん、事前準備は営業には欠かせません。
そして今は、生成AIによって、企業研究や情報収集、仮説づくり、質問案の作成、提案資料の作成など、これまで営業が時間をかけてきた仕事の多くを効率化できるようになりました。
それでも、同じように商品を理解し、同じように準備しているのに、実際の商談になると差がつく。
結果的に受注率や売上を伸ばしていく人もいれば、なかなか成果につながらない人もいます。
営業育成の現場にいると、こうした差は、営業が顧客と対話している「その瞬間」、営業が顧客の何気ない一言に対して、何を感じ、何を考え、どのように反応するか、にこそ表れることが多いと感じます。
本コラムでは、商談中の「その瞬間」に着目し、営業成果の差を生み出す力とは何か、そして、その力を営業組織として育てていくための考え方について解説します。

例えば、顧客から、「営業メンバーが増えたものの、育成が追いついていません」という話が出たとします。
Aさんは、「育成が追いつかないというのは、具体的にどのようなところでしょうか?」
と、その場で一段深掘りします。
「手間が増えたことは理解できる、ただ『育成が追いつかない』とは具体的にどういう状態なのだろう」
と考えたからです。
一方、Bさんは、「そうなんですね・・今、営業メンバーは何名くらいいらっしゃいますか?」
と、ひとまず準備してきた質問を続けます。
「人数が増えて、育成が大変なのだろう」と捉えているのかもしれません。
どちらが間違っているわけでもありません。
しかし、Aさんは顧客の一言から「何かがある」と感じ、その場で問いを変えています。
「育成」という言葉の意味を顧客とすり合わせることで、課題の解像度を高め、より確度の高い提案につなげていくことができます。
こうした違いは、商品知識や事前準備だけでは説明できません。
相手の発言を受けて、その場で何を考え、どう反応するのか、ここに営業力の差が表れます。
私は以前から、この「相手の発言を受けて、その場で次に何を考え、何を聞くかを判断する力」を「営業の瞬発力」と呼んできました。
「瞬発力」というと、頭の回転が速いことや、質問がすぐに出てくることをイメージするかもしれません。
しかし、ここでいう瞬発力は、単に「質問を早く出す力」ではありません。
商談のその場では、相手の発言を捉える→ 仮説を持つ→ 次に確かめるべきことを判断する→ 質問するという一連の処理が起きています。これまで多くの営業の商談やロープレを見てきた中で、こうした瞬発的な判断の違いを感じる機会が多々ありました。
例えば、経験豊富な営業でも、経験が豊富だからこそ先入観が働き、顧客の状況を過去の経験に当てはめて捉えすぎることで、その先の質問が深まらないことがあります。一方で、経験が浅くても、「この課題にはどんな原因があり得るか」という構造を理解している営業の場合、顧客の発言から複数の可能性を考え、一つずつ確かめながら話を深めていくことができます。また、同じように課題を捉えていても、仮説を持って問いを変えられる人もいれば、何となく気になるところで止まり、質問にできない人もいます。
こうした違いを見ていくと、瞬発的な判断を支えているものは、単なる経験量ではなく、「経験・パターン」「課題の構造」という知識の土台と、それを商談の中で使う「仮説形成・検証力」「質問力」の組み合わせではないかと考えるようになりました。
具体的には以下の知識・スキルです。
分類 | 要素 | 商談中での役割 |
知識 | ① 経験・パターン | 過去の経験から、「この話の裏には、こんな課題があるかもしれない」と可能性を想起する |
知識 | ② 課題の構造 | 整理された課題構造を踏まえ「原因はどこにあり得るか」と一つずつ検証しながら進められる |
スキル | ③ 仮説形成・検証力 | 複数の可能性を考え、相手の発言から仮説を絞り込む |
スキル | ④ 質問力 | 確認したいことを、相手が答えやすく、対話が深まる問いに変換する |
①②は、「何を知っているか」「物事をどう捉えるか」という知識・理解の土台です。
③④は、その土台を商談の中で活用するためのスキルです。
つまり、「瞬発力」は、生まれ持ったセンスや地頭の良さでは決してありません。
経験や課題の構造理解を土台に、仮説を立て、検証し、それを問いに変える。
この一連の力が、商談中に組み合わさって表に出ているものなのではないでしょうか。
しかも、①経験・パターンがないと瞬発力が発揮できない、というわけでもありません。
経験は確かに武器ですが、経験だけが瞬発力を生み出すわけではありません。
「どこに着目するのか」「課題をどう構造化するのか」「どんな仮説を持つのか」「何をどう聞くのか」を意識的にトレーニングすることで、経験の浅い営業でも瞬発力を鍛えていくことはできます。
単純に「質問練習をする」だけでは、応用性は身に付きません。
知識・スキルのバランスよく、自分にあった鍛え方が必要です。
「営業の瞬発力」の鍛え方
要素 | 鍛え方 | 具体的な方法 |
① 経験・パターン化 | 経験をパターン化する | 商談後に「何が起きたか」だけでなく、「どの発言から、何に気づいたのか」まで振り返る、できれば自分なりの方法で言語化する |
② 課題の構造化 | 課題構造のツリーマップの作成 | 取り扱う商材やサービスの提案に繋がりそうな「よくある顧客課題」について、原因・背景・関連要素をツリーで整理する |
③ 仮説形成・検証力 | 仮説を複数出す | 商談前に、顧客情報や想定課題をもとに「どんな課題がありそうか」「なぜそうなっているのか」を洗い出し複数の仮説を持って商談に臨む(第三者にも仮説出しを支援してもらうのが有効) |
④ 質問力 | 商談中の問いを振り返る | 商談録画やロープレを止め、「何が気になったのか→何を考えたのか→なぜこの質問をしたのか、どんな聞き方ができたか」を振り返る(第三者による育成が有効) |
例えば、ロープレや商談録画を見るときも、単に「良い質問だった/悪い質問だった」と評価するだけではなく、「なぜ、この発言に反応したのか」「他にどのような可能性を考えられたか」「なぜ、その質問を選んだのか」というところまで振り返ります。
ベテランと若手が同じ場面を見て、それぞれの考えを比較すれば、質問そのものだけでなく、「どこに着目したのか」「どのように捉えたのか」の違いも見えてきます。
上司が部下に対して、部下の商談を踏まえてこういった振り返りの場を持つのもよいでしょう。
瞬発力を鍛えるとは、質問を速く出す練習ではありません。
何に気づき、どう考え、なぜその質問をするのか、その思考を繰り返し使い、振り返ることなのだと思います。
日々のAIの進化を見ていると、こういった疑問も生まれます。
実際、AIはすでに商談前の準備支援だけでなく、商談中にリアルタイムに仮説や質問を提示するようなリアルタイムの支援も可能になっています。
では、「営業の瞬発力」は必要なくなるのでしょうか。
私は、なくなるというよりも、営業に求められる役割が変わっていくのだと考えています。
AIがいくつもの仮説や質問を提示してくれるからこそ、
「今、この相手に、この問いを出すべきなのか」を営業が判断する必要があります。
AIが出した仮説は、本当にこの顧客に当てはまるのか?直感的に微妙なズレを感じる場合の修正や、顧客のタイプを踏まえて、聞き方や、質問の仕方を臨機応変に変えていくことも必要でしょう。
つまり、AIによって「考えること」がなくなるのではなく、むしろ、誰しもがAIに助けを借りられるからこそ、その答えをどう評価し、何を選び、顧客への質問にどう落とし込むのかが重要になるのです。
これからの営業に求められるのは、AIの力を借りながらも、目の前の顧客を見て、その瞬間に最適な次の質問をすること。その判断と対話の精度こそが、これからの営業力の差として、より鮮明に表れてくるのではないでしょうか。