決裁者を追うな。
エンタープライズは「キーマン」で決まる

こんにちは、エンSXの野田です。

本日は、エンタープライズ開拓において、私自身が最も「ここで勝負が決まる」と感じている論点として、「真のキーマンをどう見極めるか」について、生々しくそのままシェアしたいと思います。

特に、以下のような方には、ぜひ見ていただきたいです。

  • 大手企業の新規開拓を担当している営業・インサイドセールスの方
  • なかなか案件が前に進まず、停滞に悩んでいる方
  • 「いい提案をしているのに、なぜか受注に至らない」と感じている事業責任者の方
野田 勇次郎
取締役 事業責任者
2016年エン株式会社(旧:エン・ジャパン株式会社)に新卒入社。法人営業からキャリアをスタートし、チームリーダー、マネージャーを経験。その後、SaaS領域やWebサイトUI・UXなどの新規事業に営業責任者として事業立ち上げを成功させる。2022年からはエンSXの立ち上げに参画し、事業責任者を務め、2024年に法人化。趣味はキックボクシング、サウナ。

エンプラで案件が止まる理由

いきなりですが、こんな経験はありませんか。

立派な肩書きの「部長」にアプローチし、提案も通したはずなのに、いつまでも「検討中」で稟議が動かない。

気づけば音信不通になり、半年が経っている。

あるいは、商談で一番活発に話してくれた人を「この人がキーマンだ」と思い、一生懸命フォローしたにもかかわらず、案件はまったく前に進まなかった。

エンタープライズ開拓では、こうした「なぜか進まない案件」が必ず発生します。

そして、その多くに共通しているのが、「キーマンを誤認していた」ということです。

私自身、多くの案件を経験してきましたが、提案内容そのものよりも、「誰を巻き込めていたか」が受注を左右している場面を何度も見てきました。

本記事では、私自身の経験をもとに、「真のキーマンをどう見極めるか」について整理してお伝えします。

「決裁者」と「キーマン」は違う

まず最初に、一つ整理しておきたいことがあります。

営業活動では、「決裁者」と「キーマン」が同じ意味で使われることがありますが、私はこの二つは分けて考えるべきだと思っています。

決裁者

  • 最終承認を行う人
  • 権限を持っている人
  • ハンコを押す人

キーマン

  • 社内を動かす人
  • 合意形成を進める人
  • 稟議までの道筋を作る人

もちろん、大企業では部門長や本部長が最終的に決裁するケースがほとんどです。

しかし、実際には「ハンコを押す人」と「物事を前に進める人」は一致しないことが非常に多くあります。

エンプラ攻略で見るべきは「組織図」ではなく「影響構造」

ここには、大企業ならではの落とし穴があります。

組織図を見ると、決裁ルートは明確です。

しかし、その組織図だけを見ても、本当に案件を前に進められる人は分かりません。

実際には、

  • 社内政治
  • パワーバランス
  • 信頼関係
  • 過去の実績

こうした"影響構造"によって、物事は動いています。

以前、私が所属していた組織でも、絶大な権限を持つトップ(仮にXさん)がいました。しかし印象的だったのは、その方本人だけではありません。

Xさんが厚く信頼している課長クラスの方々の発言が、組織全体に非常に大きな影響力を持っていました。

役職よりも、「誰から信頼されているか」で意思決定が進んでいく。

これは、多くの大企業に共通する構造だと思っています。

私たちは、組織図(形式)ではなく、影響構造(実態)を見る営業へシフトしなければなりません。

では、どうすればキーマンを誤認せずに済むのでしょうか。私は、誤認には大きく3つのパターンがあると考えています。

誤認パターン①:肩書きの誤認

役職者を押さえれば案件が進むと思い込む

最初の誤認は、「決裁者=キーマン」という思い込みです。

これを防ぐために、私がまず意識しているのは、「人」を探す前に「場所」を見ることです。

キーマンは「会社がリソースを注いでいる場所」にいる

真のキーマンは、会社のリソース(人・予算・期待)が集まっている場所にいる可能性が非常に高いと考えています。

場所

キーマンがいる確率

理由

成長事業・注力事業の責任者

予算と裁量を持っている

成熟・縮小事業の責任者

新規投資を進めにくい

逆説的ですが、肩書きが高くても、成熟事業の責任者であれば、新しい取り組みを推進する余地は小さくなります。

一方で、会社が今まさに投資している成長領域では、責任者の発言力や裁量も大きくなります。

つまり、狙うべきなのは、「役職が高い人」ではなく、「会社が期待している場所にいる人」なのです。

「力を入れている事業」は外からでも見抜ける

「それは商談前に分かるのか?」と思われるかもしれません。

実は、会社がどこに投資しているかは、外部情報からかなり読み取れます。

私が必ず確認するのは、

  • 中期経営計画
  • IR情報
  • プレスリリース
  • 採用ページ

です。

例えば、中期経営計画で「ソリューション事業への転換」が掲げられているのであれば、狙うべきは既存事業の責任者ではなく、新設されたソリューション部門の責任者です。

会社の期待と予算が、そこに集中しているからです。

誤認パターン②:声の大きさの誤認

一番喋る人をキーマンと決めつけない

場所を絞れたら、次は「その中の誰がキーマンなのか」を見極める必要があります。

ここで起きやすいのが、「一番喋る人=キーマン」と思い込んでしまうことです。もちろん、一番活発に話す人がキーマンであるケースもあります。

ただ、「よく話すから」という理由だけで判断するのは危険です。私自身、何度もこの誤認を経験してきました。

エンタープライズ商談では、4〜5名が同席することも珍しくありません。

その中には、

  • 積極的に発言する人
  • あまり話さない人
  • 周囲の反応を見ながら話す人

など、さまざまなタイプがいます。

私が意識しているのは、「誰が話しているか」より、「誰を見ながら話しているか」ということです。

商談では「誰が話すか」より「誰を見て話すか」を見る

商談中は、ぜひ「視線」と「空気感」を観察してみてください。

例えば、活発に話している人が、発言のたびにある人物の反応を確認しているとします。

その場合、本当に意思決定を左右しているのは、視線の先にいる人物かもしれません。

逆に、誰の顔色も気にせず発言し、周囲も自然に耳を傾けている人であれば、その人自身が高い影響力を持っている可能性があります。

営業は「会話」を聞きがちですが、「人間関係」を観察することも同じくらい重要です。

「沈黙」を見れば、社内パワーバランスが見えてくる

特に注目したいのが、「あまり話さない人」です。

同じ沈黙でも、その意味はまったく異なります。

沈黙のタイプ

特徴

見極め

① 支配する沈黙

その人が口を開くと周囲の空気が変わる

真のキーマン候補

② 委ねる沈黙

あえて部下に任せ、自分は見守っている

推進を任せる立場

③ 無関心の沈黙

誰も反応せず、存在感が薄い

優先度は低い

重要なのは、「その人が話しているか」ではなく、「周囲がその人をどう見ているか」です。

ここで一つ強調したいことがあります。

こうした観察だけで、キーマンを確定してはいけません。

観察は、あくまで「当たり」をつけるためのものです。視線や雰囲気は、その日の議題によっても変わります。

だからこそ、観察で仮説を立て、質問で確信を持つ。

この二段構えが重要なのです。

誤認パターン③:評論家の誤認

語れる人を、動ける人だと思い込む

そして、私が最も見落としやすいと感じている誤認があります。

それが、「評論家タイプ」です。

商談をしていると、

「この部長はこういう人で…」

「この案件はこう進みそうで…」

と、社内事情を非常によく話してくれる方がいます。

営業としては、とてもありがたい存在です。しかし、いざ案件を任せてみると、自分では一歩も動かない。

そんなケースも少なくありません。

社内事情を知っていることと、社内を動かせることは、まったく別です。

つまり、「語れること」と「動けること」は違う。

ここを見誤ると、案件は前に進みません。

真のキーマンを見極める2つの条件

私がキーマンを見極める際に重視しているのは、次の2つです。

見るポイント

確認したいこと

① 解像度

稟議の通し方を具体的に語れるか

② 行動力

自分で案件を推進した経験があるか

この2つが揃って初めて、「この人なら社内を動かせる」と判断できます。

逆に、どれだけ詳しく話してくれても、実際に動いた経験がなければ、評論家で終わってしまう可能性があります。

キーマンを見極める質問・判断基準

では、実際にどうやって見極めればよいのでしょうか。

私が商談でよく使う質問を、目的別にご紹介します。

① 社内の障壁を確認する質問

まずは、「どこで案件が止まりそうか」を聞きます。

例えば、

  • 「仮に進めるとしたら、どこで止まりそうですか?」
  • 「社内で反対しそうなのは、どなたですか?」
  • 「過去にこうした案件が止まるとしたら、どんな理由が多かったですか?」

ここで具体的に答えられる方は、実際に稟議を通した経験がある可能性が高いです。

② 推進経験を確認する質問

次に確認するのは、「自分で動かした経験」です。

例えば、

  • 「過去に似た取り組みを進めたことはありますか?」
  • 「○○さんご自身が旗振り役になった案件はありますか?」
  • 「以前見送りになった案件では、何がポイントでしたか?」

ここで、自分の経験として語れるかどうかが重要です。

評論家タイプは、「会社としては…」「他部署では…」という話はできますが、自分が主体となった話になると急に具体性がなくなります。

③ 意思決定ルートを確認する質問

最後に、「どう通すか」を確認します。

例えば、

  • 「この提案を進めるなら、どの順番で話を持っていくのが現実的ですか?」
  • 「実質的にGO/NOを握っているのは、どなたでしょうか?」
  • 「○○さんが説明するとしたら、誰が一番気にしそうですか?」

本物のキーマンは、固有名詞・順番・理由まで具体的に話してくれます。

その証言こそが、社内攻略ルートになります。

キーマン判定チェックリスト

商談後、私は次のような観点で振り返るようにしています。

  • 社内の反対者を具体的に説明できたか
  • 稟議の進め方を順番まで語れたか
  • 過去の推進経験を自分の言葉で話していたか
  • 「自分が動く前提」で話していたか

この4項目が揃うほど、その人が真のキーマンである可能性は高くなります。

事例:1部門の取引が4部門に広がった話

ここまでお伝えしてきた内容を、実際の事例でご紹介します。

固有名詞は伏せますが、当社で実際にあったケースです。

Before:部門長を押さえれば広がると思っていた

もともと、ある大企業(仮にA社)の1部門と取引がスタートしていました。

その組織には部門長がいて、その下に副部長・課長・マネージャーがいる、よくある組織構成です。

もし私たちが「肩書きの誤認」に陥っていたら、次に狙うべき相手は部門長だったと思います。

「まずは部長を押さえよう」

そう考えるのが自然だからです。

しかし、実際に組織を見ていくと、社内を最も動かしていたのは部門長ではありませんでした。

After:課長と二人三脚で社内を動かした

実際に推進力を持っていたのは、課長のAさんでした。

Aさんと継続的にコミュニケーションを取る中で、少しずつ社内事情や意思決定の流れが見えてきました。

例えば、

「B部門なら、この部長はこういう考え方なので、この切り口が刺さると思います。」

「C部門は私も関わりがありますが、この順番で話を進めるとスムーズです。」

「営業部は今別案件で忙しいので、話を持っていくなら来週以降が良いですね。」

まさに、本記事でお伝えしてきた「稟議の通し方を具体的に語れる人」そのものでした。

私たちはAさんと二人三脚で社内調整を進め、提案内容も一緒にブラッシュアップしながら展開していきました。

その結果、当初は1部門のみだった取引が、最終的には4部門へと拡大しました。

この事例から学べること

この事例で成果につながった理由は、特別な営業テクニックがあったからではありません。

部長だけを追いかけるのではなく、「社内を実際に動かせる人」を見つけ、その方と伴走しながら社内展開を進めたこと。

それが結果につながりました。

肩書きではなく、誰が組織を動かしているのか。

そこを見極めることが、エンタープライズ営業では非常に重要だと考えています。

キーマンを見つけたあとに忘れてはならないこと

ここまで「キーマンの見極め方」をお伝えしてきました。

最後に、実践するうえで忘れてほしくないことが2つあります。

① キーマンは1人とは限らない

エンタープライズ営業では、複数部署が関わることも珍しくありません。

営業部には営業部のキーマンがいます。

情報システム部には情報システム部のキーマンがいます。

購買部には購買部のキーマンがいます。

つまり、「一人見つければ終わり」ではありません。

案件が広がるほど、新たなキーマンを見つけていく必要があります。

② キーマンが見つからないなら、勇気を持って引く

もう一つ大切なのは、撤退基準を持つことです。

どれだけ商談を重ねても、

  • 稟議ルートが見えない
  • 誰も社内を動かせない
  • 推進してくれる人がいない

こうした案件は、現時点ではタイミングではない可能性があります。

無理に提案を重ねるより、一度引き、人事異動や組織変更のタイミングを待つ。

これもエンタープライズ営業では重要な戦略だと思っています。

まとめ

今回は、エンタープライズ営業で私が最も重要だと考えている「真のキーマンの見極め方」についてお話ししました。

改めて、お伝えしたいポイントは3つです。

① 肩書きの誤認

「決裁者=キーマン」と思い込まない。

会社がリソースを注いでいる場所にいる人から探す。

② 声の大きさの誤認

一番話す人ではなく、

誰が誰を見て話しているのか。

誰の一言で空気が変わるのか。

商談では、そうした影響構造を観察する。

③ 評論家の誤認

社内事情を語れる人ではなく、実際に社内を動かした経験がある人を見極める。

そのためには、「障壁」「推進経験」「意思決定ルート」を質問しながら確認することが重要です。

エンタープライズ営業では、形式的な決裁ルートを追うだけでは案件は動きません。

成果を左右するのは、「誰に提案するか」ではなく、「誰と一緒に社内を動かすか」です。

私自身、「1部門から4部門へ展開できた事例」も、特別な営業手法があったわけではありません。

肩書きではなく、本当に組織を動かせるキーマンを見極め、その方と二人三脚で社内調整を進めてきた結果です。

ぜひ皆さんも、次回のエンタープライズ商談では、

「この人は決裁者か?」ではなく、「この人は社内を動かせる人か?」という視点で顧客を見てみてください。

もし、「自社ではどのようにキーマンを見極めればいいのか」「今の案件で誰を巻き込むべきか」といったお悩みがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。

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