AIに代替されない!
BtoBマーケターが差別化できる
「モデレーターの極意」

はじめに

こんにちは!エンSXでマーケティングを担当している草です。

弊社では多岐にわたるマーケティング施策をおこなっていますが、近年注力しているのがイベントマーケティングの取組みです。

AI時代に入り、イベントのセッション設計やスライドの品質は、ツールの進化によって誰でも一定のレベルまで引き上げられるようになりました。構成の骨格をつくること、見栄えのよい資料を仕上げること、これらはもはや特別なスキルではなくなりつつあります。

では、これからのイベントコンテンツで差別化を生む要素はどこにあるのでしょうか。

私が注目しているのが、モデレーターという役割です。

モデレーターとは、単に質問を読み上げたり、時間を管理したりする進行役ではありません。コンテンツを演出し、登壇者の言葉を引き出し、会場にいる人たちの「聞いてよかった」という体験をつくる人。そしてこのスキルは、セッションやセミナーに限らず、社内の勉強会やイベントごとにも同様に活きてきます。

私はこれまで、前職時代を含め様々なシーンで登壇をする機会がありました。株主総会、全社総会司会、採用説明会から、BtoBマーケティングにおいてはウェビナーやイベントセッションなど。そのなかで、BtoBマーケティング現場におけるモデレーターとして大切にしてきたことを、マインドセット・事前準備・本番という時系列に沿って本記事でお伝えします。すべてがすぐに身につくわけではありませんが、考え方と準備の部分は、明日からでも実践できるものばかりです。ぜひご一読いただけると嬉しいです。

草 麻里子(くさ まりこ)
マーケティング
2008年にエン株式会社(前身:エン・ジャパン)に新卒入社。4年間営業に従事した後、インターネット事業会社へ転職。採用責任者を経験し、表彰多数。2016年にエンに再入社後は「エン転職」「engage」のBtoBマーケティングに携わる。2023年、社内公募でエンSXへ異動し、マーケティングを立ち上げ。以後、マーケティング戦略立案から実行までを担っている。

1. マインドセット:「演出家」として場に立つ

聴講者ファーストで考える

モデレーターの準備を始めるとき、まず自分に問いかけてほしいのが「このコンテンツは、誰の・何のためにあるのか?」という問いです。

よく陥りがちなのが、「自分が聞きたいことを聞く」モデレーターになってしまうこと。登壇者と事前に話すなかで興味が湧いたこと、自分が個人的に気になっているテーマ、トレンド・・・そういった方向に質問が寄っていくセッションなどをお見かけすることもあります。

大切なのは、「このコンテンツのターゲットは、今何を知りたがっているのか?何を聞けば価値を感じるのか?」という視点から準備をすることです。登壇者が面白いと思っている話と、聴衆が知りたい話にズレが生じることも珍しくありません。そのズレを事前に察知して埋めていくことこそがモデレーターの最初の仕事です。

そして、このセッションを通じて「聴衆にどんな態度変容を生み出したいか」まで解像度を上げておくと、当日の問いの方向性が自然と定まってきます。「このセッションを聞いた後、参加者にどう感じてほしいか、何を持ち帰ってほしいか」を言語化しておくことが、すべての準備の出発点になります。

「無知」を武器にする

モデレーターとして場に立つとき、私が意識しているスタンスのひとつが「無知を武器にする」ということです。

知ったかぶりをしない、浅い知識を見せない。これは単に恥をかかないためということではなく、わからない人の代弁者になることが、モデレーターの重要な機能だからです。

たとえば、登壇者が専門用語をさらりと使ったとき、モデレーターがわかった顔をして流してしまうと、会場の多くの人が「わからなかったけど、まあいいか」と置いていかれます。そこで「今おっしゃった〇〇という言葉、もう少し噛み砕いて教えていただけますか?」と聞けるのは、モデレーターだけです。

これは知識がないからできることではなく、知っていてもあえて聞くというスキル。「この概念は参加者にとってまだ馴染みが薄いかもしれない」と判断したら、自分が理解していても確認の問いを挟む。この一手間が、コンテンツ全体のわかりやすさを大きく底上げします。

主役は登壇者、モデレーターは黒子

これは、私がモデレーターという役割でもっとも大切にしていることかもしれません。

モデレーターが目立つセッションは、たいてい失敗しています。会場を出た後、参加者の記憶に残るのは登壇者の言葉であるべきです。

モデレーターの問いは、登壇者の言葉を引き出すための舞台装置にすぎません。目指すのは、登壇者が「話しやすかった」「楽しかった」「また一緒にやりたい」と感じられる環境をつくること。

モデレーターが前に出すぎることは、登壇者の魅力を薄めるだけでなく、「また一緒にやりたい」という関係性の構築にも影響します。

モデレーターとは、コンテンツを演出する人です。

主演俳優ではなく、優れた演出家。自分が輝くのではなく、登壇者が輝ける場をつくることに徹する。このマインドセットこそがコンテンツの品質を左右するポイントです。

2. 事前準備:完成度8割の準備をする

目的のすり合わせ

準備の最初のステップは、コンテンツ趣旨・骨子の確認から。

主催者・登壇者と「このセッションを通じて、参加者にどんな態度変容を生み出したいか?」を合意しておく。コンテンツによっては、モデレーターが企画に携わっていないケースもあるかと思います。いかなるチーム編成だったとしても、必ずコンテンツの企画趣旨・骨子を確認しておきましょう。

  • 「最新トレンドをキャッチアップしてほしい」のか?
  • 「具体的な手法を持ち帰ってほしい」のか?
  • 「登壇者の考え方に共感して自社の課題と照らし合わせてほしい」のか?

目的によって、モデレーターが引き出すべき言葉は変わってきます。

ここを曖昧にしたまま進めてしまうと、準備したはずの質問が的外れだったり、本番で何を深掘りすればいいかわからなくなったりするだけでなく、せっかく参加してくださっている聴講者の期待とズレてしまいます。

登壇者個人への深掘り

続いてのステップが、演出する対象の登壇者・登壇企業への理解を深めることです。私はここに最も時間を費やします。台本や質問のリストだけ作成して共有する、という運用をお見かけしたこともありますが、弊社では必ず登壇者とは事前に複数回の打合せを行います。どんなに忙しくても、最低でも以下の2つのタイミングは顔を合わせての打合せをオススメします。

  • ①前述のコンテンツ骨子すり合わせのタイミング(登壇合意~企画説明段階)
  • ②構成確定後の登壇事前リハーサル(コンテンツ骨子確定後~本番1週間前)

①の打合せの前には、事前準備としてAIを活用しつつ登壇者および登壇企業についての解像度を高めておきます。

▼Perplexityで登壇者の経歴、趣味、過去の登壇情報やインタビュー記事、登壇企業の最新ニュースや所属部署の関係者情報などを収集

▼収集した情報をNotebookLMで整理・要約。登壇者の主張やコンテンツテーマに合うトピックスを抽出してもらう。例)「この人および企業は○○についてはどのような主張をしているか」「同社の取組みの中で、まだ他のセミナーやイベントでとりあげられていないものは?」

そうして、核となる登壇者の主張や思想を理解したうえで、コンテンツ骨子のすりあわせに臨むと、セッションの中で強調すべき要素について合意がとれ、構成も作りやすくなります。

構成が決まり概ね進行台本ができてきたら、事前リハーサルです。この②の段階では、次のようなことを確認しておくとよいでしょう。

  • 一番伝えたいことについての再確認
  • あまり深く触れてほしくないテーマ、拾ってほしくない質問は?
  • 台本の粒度(モデレーターからの問いまで全て台本に記載してほしいか?進行の流れだけ記載し臨機応変に対応したいか?)
  • 得意な話し方(具体例が多い、フレームワークで整理するなど)はどんなタイプか

これを把握しておくことで、当日の問いが登壇者にとって「話しやすい形」に自然と沿うようになります。きっちり台本通りに進行したいタイプの方もいれば、参加者の反応を見ながらその場の空気感を大事にしたいタイプの方も。登壇者のタイプを見極めましょう。

また、この事前リハーサルには別の効果もあるのです。登壇者が「このモデレーターとなら話しやすそう。安心できる」と感じておいてくれると、本番のリラックス度が違ってきます。

「問い」と「繋ぎの言葉」のストックをつくる

さて、本番が近づいてきました。セッションで使用する進行台本に沿った質問を準備することはもちろんですが、私がそれ以上に意識しているのが問いや繋ぎ方の「型」を持っておくことです。

なかでもよく使うのが、次のふたつ。

逆説の問い

「一般的には〇〇と言われていますが、なぜ御社では敢えてそうしないのですか?」

という形の問いです。

常識や定説に対して「でも、なぜ?」と問うことで、登壇者の独自の視点や主張が引き出されやすくなります。「みんなが正しいと思っていること」を疑い、登壇者の本音や哲学を引き出しましょう。この逆説の問いかけは、登壇者の回答を待つ聴講者の集中も誘うことができるので多用しています。

定義の問い

「今おっしゃっていた〇〇というのは、御社ではどのような状態のことを指しますか?」

という形の問いです。

抽象的な言葉や概念は、聞いている側がそれぞれ勝手に解釈してしまいます。

例えば「属人化している」「顧客との関係性を深める」「コンテンツで価値を届ける」のような表現です。

こういった言葉は、登壇者が意図している意味と聴衆が想像している意味がズレていることが多いもの。定義の問いで言葉の解像度を上げることで、コンテンツ全体の理解度を高めることに直結します。

この2種類の問いは、準備段階でストックしておくだけでなく、本番でも即興で使えるように体に染み込ませておくと、思わぬ展開にも対応しやすくなります。

他にも、以下のような型があります。ぜひ参考にされてみてください。

問いの種類

用途・効果

時制の問い

「以前は〇〇だったと思うのですが、今はどう変わりましたか?」

登壇者の思考の変遷や、業界のトレンド変化を語ってもらうのに有効。BtoBでは鉄板です。

失敗・葛藤の問い

「うまくいかなかった時期や、迷った瞬間はありましたか?」 

聴講者の共感を生む他、表面的でないリアルな話でセッションに深みが増す。

聴講者を代弁する問い

「今日いらっしゃる方の多くが〇〇で悩んでいると思うのですが、何から着手するのがいいと思いますか?」 

聴講者の共感を生み、満足度を高めやすい。

優先順位の問い

「もし一つだけ選ぶとしたら、何が最も重要ですか?」 

論点を絞ったり、話が広がりすぎた時に収束させる。

本質の問い

「そもそも、なぜ〇〇が重要なのでしょうか?」 

議論が具体論に入りすぎたときに引き戻す。登壇者の主張を引き出しやすい。

繋ぎの言葉

セッション進行に台本っぽさが出てしまうのが、「では次のテーマに移りましょう」のようにぶつ切りで無理やり構成を消化しようとするシーンです。

商談で言うところの枕詞に近しい、繋ぎの言葉も事前に用意しておきましょう。

「今おっしゃっていた〇〇に関連して、〇〇について続いて質問させてください」

「先ほど〇〇というお話がありましたが、次はこれについてもう少し深堀りしていきます」

というように、今の話を受けて次の問いへ自然に繋げるようにすると、流れが格別によくなります。コンテンツの中で重要度の高くなるパートでの問いと繋ぎ方については、予め進行台本内に落とし込んでおきます。

タイムラインを設計する

時間内に収めることだけがタイムマネジメントではありません。

コンテンツの構成と時間配分を事前にマッピングし、「どこを深掘りして、どこを切り上げるか」の判断基準を持っておくことが重要です。

たとえば、全体が4つのパートに分かれているとしたら、それぞれに割ける時間の目安は記憶しておきます。そして本番では「今、残り時間と残りコンテンツのバランスはどうか」を常に意識しながら進行するよう心がけましょう。

私の場合は、聴講者の反応や登壇者のテンションによって時間のウエイトを調整したいと考えているため、進行台本そのものに余白を設け、8割程度の完成度で当日を迎えるようにしています。

与えられたセッション時間が30分間だとしたら、台本は24分間分です。バッファの6分間は当日参加者からリアルタイムで寄せられる質問を挟んだり、聴講者の反応の良いパートで追加で問いを入れるための時間として残しておきます。

3. セッション本番:「ライブ感」を味方につける

共感とリアクションはオーバーなくらいがちょうどいい

本番が始まったら、まず意識してほしいのがリアクションの量です。

相槌、うなずき、表情・・・。これらは登壇者の緊張をほぐす最大の武器です。私がいつも心がけているのは、「他の誰がなんと言おうと、私はあなたの話が最高だと思っています!」というスタンスで臨むことです(笑)。

リアクションが薄いモデレーターの前では、登壇者は本音を話しにくくなります。逆に「この人はしっかり聞いてくれている、受け止めてくれている」という安心感があると、登壇者はどんどん話してくれるようになります。

特に最初の5分が重要です。セッションの冒頭で登壇者がリラックスできる雰囲気をつくれると、その後のセッション全体のトーンが決まります。少し大げさかもと感じるくらいのリアクションが、実はちょうどいいです。※言わずもがな、オンラインの場合はさらにオーバーなくらいでOK

話を「構造化」してリアルタイムで整理する

登壇者が話し続けているとき、モデレーターは「今、この話は本筋から逸れていないか」を常に把握しておく必要があります。

話が広がったり、脱線したりすることは珍しくありません。むしろ登壇者のテンションがあがって饒舌になっている証でもあります。

そこで「つまり、今おっしゃっていたのはこういうことですね?」と要約して返すことで、聴講者の理解を助けながら会話の軸を戻すことができます。また、「〇〇という理解でよいですか?」という確認の問いを挟むことで、聴講者も「ああ、そういうことか」と腑に落ちる瞬間が生まれます。

モデレーターが会話を構造化することで、複雑な内容でも聴講者が迷子にならずについてこられる。このコントロールは、モデレーターにしかできない役割のひとつです。

大事なことは繰り返し言う

ここまで沢山事前準備をして、当日も素晴らしいコンテンツを演出できたとしましょう。しかし残念なことに、それでも聴講者の記憶に残るのは1,2つのメッセージだけです。手元に資料がわたるセミナーならまだしも、セッションやオフラインの状況下では一層顕著です。

そこで、コンテンツ骨子の核となる「最も伝えたいこと」はコンテンツ内でも繰り返し言葉にします。

先日モデレーターを務めた弊社主催のオフラインイベントのセッションはBtoBマーケティングにおける『越境』を重要キーワードにしていたのですが、登壇者からこのキーワードを引き出す問いを準備し、まず登壇者に言っていただく。そして繋ぎの言葉や締めの言葉でも多用することで、聴講者の記憶に残りやすくなります。実際、イベント後のアンケートでも多くの方がこのキーワードについて触れてくださっていました。

「違和感」へのアンテナを立てる

本番で特に難易度が高いのが、場の空気の変化を察知することです。

「さっきまであった熱気が少し冷めた気がする」「登壇者が使った言葉、会場に伝わっていないかもしれない」こうした微細な違和感を掴んで、素早くフォローに入ることができると、セッションの質が一段上がります。

オフラインであれば、会場の人たちの表情が手がかりになります。腕を組んだ、視線が下がった、欠伸をしている・・・こういったサインが見えたら、「少し補足させてください」とフォローに入るタイミングです。

オンラインでは表情が見えにくい分、難易度が上がります。チャット欄の反応、質問の有無、参加者の反応速度など、使えるシグナルを意識的に拾うようにするとよいでしょう。

フォローの言葉は、「今の点、もう少し具体的に教えていただけますか?」「参加者の方々も気になっているかと思うのですが、〇〇という理解でよいですか?」といった形が使いやすいです。「会場のみなさんの代わりに聞く」というスタンスで入ると、登壇者も補足しやすくなります。

沈黙を恐れない

最後にお伝えしたいのが、沈黙との付き合い方です。沈黙が生まれると、モデレーターはつい焦って次の言葉を急いでしまいます。でも、沈黙は必ずしも悪いことではありません。登壇者が深く考えている瞬間であることも多いし、会場の人たちがじっくり咀嚼している時間であることもあります。これは商談でも同じことが言えますね。

あわてて話を継いで場を埋めようとするより、少し待つ。その間合いがあることで、その後の言葉がより重みを持って届くことがあります。

沈黙を「失敗」として恐れるのではなく、ライブ感のひとつとして楽しめるくらいになると、モデレーターとしてひとつ次のステージに進めた感覚があります。脱線も同様です。予定外の方向に話が展開したとき、それをうまく活かして予想外の気づきを引き出す。そんな即興の面白さが、モデレーターという役割の醍醐味だなぁとも思っています。

おわりに

ここまでお伝えしてきたことを振り返ると、タイムマネジメントと場の空気を読む力は、ある程度の経験と場数が必要なものの、マインドセットの部分と事前準備の習慣は、明日からでも変えられるものです。

聴講者ファーストで考えること、無知を武器にすること、問いや繋ぎの言葉の型を持っておくこと・・・こうした積み重ねが、やがて「このモデレーターのセッションは聞きやすい」「登壇者の言葉がすっと入ってくる」という評価につながっていきます。

AI時代においてコンテンツの品質が均質化するなか、場をつくる人の質はむしろ際立つようになってきます。モデレーターというポジションを、ぜひ「差別化の武器」として捉え直してみてください。

余談ですが、弊社ではイベントマーケティングやコンテンツマーケティングのご支援も行なっております。コンテンツを通じて良質な顧客体験を提供したい、より高い成果を出したい、そんなお悩みがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。

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