
BDRは、こちらが狙ったターゲットに対して能動的にアプローチする手法です。そこには大きなメリットがある反面、特有の難しさも存在します。
インバウンド(引き合い)と異なり、BDRは「今、検討していない層」へのアプローチが中心です。そのため、電話口での拒絶は日常茶飯事。断られ続けることでメンバーのメンタルが削られ、行動量が落ちたり、仕事が「作業」化してしまったりすることが多々あります。
しかし、その難しさを超えた先には大きな価値があります。BDRの最大のメリットは、「自社が本当に受注したいターゲット」に直接アプローチでき、リアルな市場の反応をダイレクトに回収できることです。
「この訴求は刺さるのか?」「今のマーケットには何が不足しているのか?」といった生きた情報を、最速で事業戦略にフィードバックできる。これこそがBDRの醍醐味です。
この「難しさ」を「やりがい」に変えられるかどうかは、PMが現場のISメンバーとどう向き合うかにかかっています。
BDRのプロジェクトを組織図で表す際、ISをピラミッドの最下層に置くような表現を見かけますが、私はそうは思いません。むしろ、その逆だと思っています。

プロジェクトにおいて、最も尊ぶべき「主役」は、現場で顧客と向き合うインサイドセールスのメンバーです。
なぜなら、PMでもクライアントでもなく、誰よりも早く顧客の声を拾い、最前線で仮説検証を行っているのは彼ら・彼女たちだからです。PMはあくまで、主役たちが最大限のパフォーマンスを発揮するための「環境を整える役割」に過ぎません。
この「IS主役論」をベースに、私が稼働準備の段階から徹底している3つのマインドセットをお伝えします。
プロジェクトの顔合わせ冒頭、私は必ずこの言葉を伝えます。
単なる「リストを消化する作業者」ではなく、「市場の反応から戦略の妥当性を判断し、プロジェクトの進むべき方向を決める役割」として、彼らを頼りにしていることを言葉にします。
役割を明確に定義し、期待をかけることで、メンバーの中には「自分がこのプロジェクトを動かしているんだ」という当事者意識が芽生えます。
すると、指示を待つのではなく、現場から「この業界は反応が良い」「トークのここを変えたい」といった精度の高い情報が、「勝手に上がってくる」ような好循環が生まれるのです。
この言葉を伝え続けることで、ISメンバーから上がってくる報告の“質”が明らかに変わりました。
単なる「アポが取れた/取れなかった」という結果報告だけでなく、次のような声が自然と集まるようになったのです。
・「業界AとBを比べると、Aのほうが〇〇に関心を示すケースが多いので、注力先を変えませんか?」
・「このトーク部分は反応が弱いので、◎◎に変えて検証してみたいです」
・「メイン訴求ではない××を伝えると、“具体的には?”と聞かれる回数が増えました」
さらに、
・「FSが商談しやすいように、このヒアリング項目を追加しませんか?」
といった、プロジェクト全体を良くする視点の提案も出てくるようになりました。
「自分たちが主役だ」と認識した瞬間から、ISは“指示された作業者”ではなく、“戦略の担い手”に変わる。
これは、どのプロジェクトでも共通して見られる変化です。
先ほど述べた通り、BDRに拒絶はつきものです。数値目標を追うISにとって、アポにならない結果は「失敗」と捉えてしまいがちですが、私は「それは失敗じゃないよ」と伝えています。
アポにならない理由が分かることは、クライアントにとって「やらなくていいこと(注力すべきでないターゲットや訴求)」を特定できたという、非常に価値のある発見です。
成功体験だけでなく、うまくいかなかったことや疑問点もオープンに共有できる心理的安全性のある組織こそが、失敗を未然に防ぎ、チーム全体の成果を最短距離で引き上げてくれると考えています。
実際にこの考え方を伝えたISメンバーからは、こんな声が上がっています。
「断られることが多い仕事ですが、『この訴求は刺さらないというデータが取れた。一歩前進だ』と考えられるようになりました。いまは、悪い報告ほど早く上げたほうが喜ばれる感覚があります」
BDRにおいて重要なのは、“成功体験を増やすこと”以上に、失敗を安心して共有できる空気をつくることだと、私は考えています。
BDRは孤独な戦いになりがちです。だからこそ、日々の活動の中に一体感を生むための「遊び心」を大切にしています。
その一つが、チーム独自の「共通言語」です。
例えば、アポイント獲得を「わっしょい!」と呼び、獲得時にはチャットでお祭りのように称え合う。一見シンプルかつもしかしたらふざけていると思われるかもしれませんが、こうした文化が「もう1件架電してみよう!」「明日も頑張ろう」と思える活力になり、結果としてメンバーのエンゲージメントと生産性を高めてくれます。

この文化について、最初は戸惑っていたメンバーもいました。
「正直、最初は『何言ってるんだ?』と思いました(笑)。
でも今は楽しいです。リモートだと孤独になりがちなので、チャットで“わっしょい!”が流れて、みんながスタンプで反応してくれると一体感があります」
BDRは個人戦に見えがちですが、“みんなで祭りを楽しむ”感覚を持てるかどうかで、継続力は大きく変わります。
リモート環境では、雑談やちょっとした声かけが自然には生まれません。
だから私は、どのプロジェクトでも毎日必ず、賞賛や自己開示のチャットを送るようにしています。

「何か意見を出してほしい」と求める前に、まずは自分の考えや感情を開示する。
顔が見えない環境だからこそ、この順番がとても大切だと感じています。
PMが細かく管理しなくても、メンバーが自ら現場情報を拾いに行き、自発的に改善を提案してくれる。そんな「情報が勝手に集まる状態」こそが、プロジェクトの精度を劇的に向上させ、クライアントへの提供価値を最大化させます。
BDRという難易度の高い仕事だからこそ、リストやスクリプト以上に、まずは「ISが主役だ」という想いをチームの真ん中に置くこと。
これからも、現場のメンバーたちが誰よりも誇りを持って輝ける舞台を、情熱を持って作り続けていきたいと思います。