「お客様の課題も聞いた。提案資料も完璧。メリットも全部伝えたはずだ」
それなのに、なぜかお客様の反応が鈍い。受注に至らない……。
私はかつて、この“刺さらない営業の沼”にはまっていました。
ある日、トップセールスの先輩に同行を頼み、商談後に尋ねました。
「うまくできたと思うんですが、なぜ決まらなかったんでしょう?」
先輩の答えは、予想外の一言でした。
「売れるようになりたいなら、広告を学べ」
広告? 営業なのに?
困惑した表情をしていると、先輩は言いました。
「CMや電車広告を見てみろ。彼らは15秒で心を動かす。営業も同じ。お客様の欲しい情報を、刺さる一言で届けろ」
その言葉の意味がわかったとき、私は提案の本質を180度見直すことになりました。

よくよく振り返ると、私は自分の提案を“説明”していただけでした。
「自社の強み」「導入のメリット」「コスト削減効果」
全て正しいことを言ってはいるのですが、お客様の心に届く言葉ではなかったのです。
その瞬間から私は、広告コピーを研究しはじめました。
短い言葉の中に隠された人を動かす圧倒的なパワー、その原理が少しづつ理解できるようになっていきました。
広告のキャッチコピーは、わずか十数文字で消費者の心を動かし、行動(購入)を促すことを至上命題としています。
彼らがターゲットの心を掴むために活用しているのが、人間が持つ根本的な2つのモチベーションパターンです。

どちらのモチベーションに火をつけるか、広告では緻密に計算されています。
では実際に、モチベーションパターンの違いが、セールストークやキャッチコピーにどう影響するのかを見てみましょう。
売りたい商品が同じでも、目的志向と問題回避の人に響く言葉は全く異なります。
例:新しい化粧水のバナー広告
目的志向タイプに売るなら……

「ワンランク上の、輝く素肌を手に入れる」
というキャッチコピーが未来の理想を想起させ、刺さりやすいでしょう。
一方で問題回避タイプに売るなら……

「乾燥による小ジワの悩みから解放される」
現在の悩み解消に焦点を当てた表現が刺さりやすいです。
これらはどちらもAI生成した架空のバナー広告ですが、身の回りの広告文、キャッチコピーに目を向けてみると、
目的志向と問題回避のいずれかに刺さりやすい文章が使われていることに気が付くはずです。
このように同じ商品でも、「誰のどんな動機に響かせるか」で反応がまるで変わります。
重要なのは、実際の商談で「相手がどちらのタイプか」を見極めること。
商談中の雑談やヒアリングで、相手の言葉遣いに注目してみてください。
目的志向が強いタイプであれば、
「目標は〜です」
「〜を達成したい」
「何が得られますか?」
問題回避が強いタイプであれば、
「〜なのは避けたい」
「〜が不安です」
「現状の〜を改善したい」
などのような言葉が商談中に飛び出してきます。
相手の使う言葉は、そのまま心理の地図になります。
どんな言葉に反応しやすいのかを聞き取ることが、刺さる提案の第一歩です。
もうひとつ別の例でセールストークを考えてみましょう。
あなたは業務効率化システムを販売する営業担当です。
目的志向、問題回避それぞれのタイプに合わせた刺さるセールストークを考えてみてください。
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いかがでしょうか。何か思い浮かびましたか?
それでは回答例を載せておきます。
▼目的志向タイプ向け
「このシステムが、御社の目標達成を加速させます。
導入企業では平均110%の売上アップを実現しています」
▼問題回避タイプ向け
「このシステムで、手入力ミスを防げます。
月末の残業ストレスやクレームのリスクを大きく減らすことができます」
同じ機能説明でも、焦点を変えるだけで反応率が大きく変わります。
営業とは、単に製品特長を語る仕事ではなく、お客様の心理に合わせて言葉をデザインする仕事でもあるのです。
BtoB営業の難しさは、決裁構造が多層的なことです。
現場担当者、部門長、経営層——それぞれが異なるモチベーションで動いています。
現場担当者は「問題回避」(リスクを減らしたい、手間暇をなくしたい)
決裁者は「目的志向」(売上を伸ばしたい、成果を拡大したい)
などもよくあるケースです。
つまり、1つの提案で2つのモチベーションを満たさなければなりません。
その際には、両方に刺さる言葉を織り込むのが効果的です。
「現場が安心できる“業務負担の軽減”と、
経営層が魅力を感じる“生産性向上”の両立を実現します」
くれぐれも気を付けていただきたいのが、「あの人は〇〇タイプだ」と決めつけることではなく、
今この商談において、どちらのモチベーションタイプが強く出ているかを観察し、言葉を柔軟に選ぶこと。
これを忘れないでください。
トップセールスが「広告を学べ」と言った真意。
それは、メリットを並べることではなく、お客様の心理、モチベーションに寄り添った刺さる言葉を磨け、という意味でした。
あなたの提案はただの説明になっていないでしょうか?
次の商談では、ぜひお客様の言葉に耳を傾けてみてください。
そこには、刺さる提案トークを作るためのヒントが必ずあるはずです。